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アルゲリッチ「私こそ、音楽!」感想。WMとしてのピアニスト

 

アルゲリッチ 私こそ、音楽! [DVD]

 

例によって観てからレビューを書くのがおっそいんですが、備忘録です。ドキュメンタリーなのでネタも何もないんですが、一応ネタばれ注意です。

ピアニスト映画だと思って観に行ったのですが、全然違いました。これはこれで面白かったです。

 

これはピアニストの映画ではない

勝手にピアニストとしての苦悩や交流やショパンに対する思いなどを描いたものだと思ってたのですが、実際は家族の物語、もっと言うと「娘と母の物語」でした。なんせ、使われている映像のほとんどが、アルゲリッチの娘ステファニーが手持ちカメラで撮ったものなのです。そういう意味で、音楽を期待して観る分には若干物足りないかもしれません。

アルゲリッチはインタビューを嫌うことで有名なのですが、この映画では、娘に向き合っているせいか寝起きだろうとコンサート前だろうと饒舌に語ります。

 

思ったことは2つです:

1、子育てに正解はないんだな。

2、ステファニーは無邪気過ぎると思う。

 

1、アルゲリッチの破天荒な「子育て」

アルゲリッチは父親の違う娘を3人生んだのですが、その子育てがとても面白かった。あれだけ精力的に活動しているピアニストだから、子育てなんかできないだろうと思っていました。でも実際は、娘たちは母親の影響をかなり受けているし、また母親を思ってもいます。子どもが小さい頃、家には様々なアーティストが出入りし、練習とコンサート漬けの母に合わせて夜更かしし、学校も行かず、コンサートの長旅に付き合ったそうです。一般的な子育て像とはかけ離れた子育てですが、娘たちは立派過ぎるほどに成長しているのに驚きました。長女はバイオリニスト、次女はフランス文学の先生、そして三女は映像作家として活躍中だとか。みんな魅力的な女性です。

子育ては、とかく「何時までに寝るべし」や「手作りの栄養バランスのいい食事を」、「勉強する習慣を」「学校に毎日通う」…等々、ルールのようなものがたくさんあるのですが、一番大事なのは「そこ」じゃないんだろうなと思いました。愛情を伝えたりしかるべき人物に会せたり、親の生き方を見せたりすることのほうが親の記憶として残るのかもしれません。私自身、毎日食べたはずのご飯や通わせてもらった習い事なんかより、親が何気なく私について言った言葉のほうが印象に残っている気がします。ベースとして衣食住(+勉強)を与えることがあるんでしょうけどね。

 

2、「愛された末っ子」が見る母の姿

この映画は、アルゲリッチが一番可愛がったという末っ子が撮ったものです。一方で、長女は中国人の父親に育てられており、母親に近づきたいけれど距離を感じる微妙な立場。次女は母親に対してはちょっとクール。学校に行かない3女のために読み書きを教えるなど、幼いころからしっかりしています。全編を通してアルゲリッチが愛情深くこちらを見ているので、なんとも幸福感に満ちた映像が続くのですが、長女、次女の姿が描かれるにつれて「ああ、この目線は3女に向けた目線だったのだ!」ということに気付かされました。エンディングは完全に3女に向けたメッセージで、ここで完全にアルゲリッチと観客の間に壁を感じます。長女は微妙な気持ちでこれを見るんじゃないかな~、とか、余計なことを思ってしまったりも。かくいう自分も末っ子ですが…。

 

面白かった 

ピアニスト映画が観たかったのでちょっと拍子抜けしましたが、あのアルゲリッチが娘二人を立派に育て上げていること、別れた夫とも仲が良いこと、今でも老いを感じながらずっと演奏旅行をしていることなどが分かって、意外にも「ワーキングマザーとしてのピアニスト」として捉えられました。美しい才媛として有名だった頃、「若い女性というよりは40くらいの男のような気持ちだった」と回想するアルゲリッチ。ここにも女性のオッサン化の波が(違)

私が結婚する前だったら、あまり面白く感じなかったかもしれません。

 


映画『アルゲリッチ 私こそ、音楽!』9月27日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国 ...