久しぶりに広告作品で驚かされた。
ウィーンの「ヴァンガーディスト・マガジン(Vangardist Magazine)」の限定版"HIV HEROS"で、HIVに感染した血液をインクに使ったというもの。
1万8千部のうちの3千部の表紙のみが、HIVに感染した血液で印刷されたそうだ。
photo © Julian Behrenbeck.
上記の表紙のうち、右側が血液を混ぜたインクのバージョン。真ん中にデカデカと「この雑誌はHIV+の人々の血で印刷されている」と書いている。左側の男性モデルのバージョンは普通のインク。
制作にあたっては、3人のエイズ患者の血液が厳重に採取され、印刷を許諾したオーストリアの小さい印刷所のオーナーが他の従業員を巻き込まないよう自ら一晩で印刷したそう。さらに意図せず触ることになる人がいないよう、プラスチックのパウチで封をして配布されたとのこと。
photo © Julian Behrenbeck.
このキャンペーンが意図している「HIV感染者に普通に接することが安全である」というメッセージは分かるんだけど、この↑過程を見るだけでも、実情とは違ってどれだけ恐れられているかということの裏返しになっているところが味わい深い。
制作者の意図、実際に制作されるときの恐れられ方、そして受け取り手の気持ち。キャンペーンとしてはシンプルなんだけど、実際に起こっていることの複雑さ、そして議論を呼んでいる現状などをひっくるめて、かなり興味深い。
自分が街頭でこれを受け取ったらどう思うだろうか?
photo © Julian Behrenbeck.
ヴァンガーディストと、広告会社のサーチ&サーチとの共同で作られたそうです。来年のカンヌで出てきそうだな。
■下記リンクから、雑誌の全頁が公開されています。
思ったよりめちゃくちゃページ数多かった
■一応、買える。
001 VANGARDIST Print Issue #3 - #HIVHEROES Limited Edition
■キャンペーン動画。
このキャンペーンを見て思い出さずにはいられないのが、湊かなえの「告白」。エイズにかかった夫の血液を、自分の子供を殺した二人の生徒の牛乳に混ぜて飲ませたんだっけ。劇中でも「実際に感染することはほぼない」って言っているんだけど、心が弱い方の子供はそのせいで半狂乱になってしまう。
自分がそういう目に遭ったと想像してみても、とても嫌だ。実際がどうかということの前に、ネガティブなイメージが塊となって襲ってきて、嫌悪感でいっぱいになってしまうだろう。それがつまりは「風評被害」であり、「偏見」なのだ。
アタマで分かっていても、正しいことを正しいタイミングするということは、難しい。