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この世界の片隅に(2016年、日本)

「この世界の片隅に」公式アートブック

思い出しながらまた泣く…

戦争に向かう日本の中で、当たり前の日常を送ろうとしていた主婦の話。「どうやら傑作らしい」という前評判だけ聞いて、他に何も耳に入れずに見ました。結果、めちゃくちゃ良かった。娘が小学校高学年くらいになったら、一緒に見ようと思いました。興味ある方は、先入観なしで行った方が良いと思います。まあ、日本の第2次世界大戦の話だし、ネタバレも何もないんですが、それでも。

 

色々と「初めての経験」がありまして、、

  • エンドロールでほとんど誰も立ち上がらない。明るくなるまで動きなし(会場は8割入りくらい)
  • 会場のあちこちでけっこうな泣き声(まあこれは他の作品でもあるけど、両隣が盛大にすすり泣いていたのは初めてだった)。
  • 油断すると映画のことを思い出してまた泣く。どんだけー!

とにかく泣き映画でした。泣きすぎて頭痛くなった。


「戦争+庶民の生活=泣き映画」と言えば、「火垂るの墓」。ですが、本作は戦争と直接関係ない要素の描きこみ、世界観が豊かで、ファンが多いのも頷けました。単純に、主人公と彼女を取り巻く世界を愛してしまいます。

最初は要素が多く、テンポが速く、異物感が強くて「なんだこの映画?」と思っていたのですが、どんどん物語との距離感がゼロに近づいて行きました。平凡な主婦のリアルな恋の話、登場人物の良い面ばかり映すところ、悲惨な状況を笑って過ごそうとすること、それから主人公の「かいぶつたちのすむところ」のような脳内ファンタジー世界、など…夢とヒリヒリするリアルが混ざり合って、心にスルスル入ってくるんですよね。そこからの、8月6日、8月15日への容赦ない突入。やめてー!もう、やめたげてー!って、会場の誰もが思っていたと思います(T△T)


個人的に、一番印象に残ったシーン――いや、一番って言うと他にもいっぱいあるから、一番印象に残ったシーンの一つ――は、B29が来て爆撃が始まるとき、すずが爆撃を様々な色合いの花火のように想像して、「ここに絵筆があったら」とつぶやくところ。私事ですが、うちの家は有名な花火大会の打ち上げ地点のすぐ近くなんです。だから花火が打ちあがるとき、家の中でも胃腸に響くほどの音がするんですが、それを近所のおばあさんが「空襲みたいねえ」と言っているのを聞いたことがあって。それ以来なんとなく「空襲=花火」というイメージのオーバーラップがありました。もう一つは、「キングスマン」の悪名高い脳みそポポポポーンのシーン。「世界の片隅」とちょうど似たような色鮮やかな爆発で表現されていています。

B29による空襲というと、その先の惨劇は予想されているわけで、戦争映画だと始めから悲劇として描かれることが多い。でもこの映画だとまずは主人公のドリーミーな世界に取り込まれているところが、案外実際の庶民の感覚に近いのではと思いました。

片淵監督のインタビューで、実際の当事者の感想に「B29は綺麗だった」ということが多かったのでそういう描き方をしたとあり、こういうのは緻密な調査がないと分かりえないことだなあ、と。

 

他にも忘れないであろうシーンがたくさんあり、何度も見てみたい映画でした。

 

余談ですが、要素の多さ、テンポの速さ、それを裏打ちする徹底的な考証・リアリティというのは、最近の大ヒット映画の特徴なのかなーと思いました。マッド・マックス=フューリーロードとか、シンゴジラとか。今は日常的に動画を撮ったり、見たりする世代であるし、海外ドラマのテンポの良さ、視聴者の理解力にゆだねて説明せずに展開することに慣れているだろうし。「世界の片隅」でも、説明しない意味深なシーンがいくつもあって、その理由を調べていくともっとハマれそうです。