豊島は「とよしま」じゃなくて「てしま」と読むらしい。
西沢立衛さんが設計した「豊島美術館」のことは、「水滴みたいな形の美術館」としか認識していなくて、それが「てしま美術館」なんだということはなんとなく知っていたわけだけど、豊島という文字には全くなじみがなかった。
豊島は、直島から船で30分くらい。瀬戸内海に浮かぶいくつもの小さい島の一つで、大きさは端から端まで歩いて1時間ほどだ。
主要な産業はなく、強いて言えば水が豊かで気候がいいので農産物が豊かに実り、水産物も豊か。その昔、産業廃棄物を何十トンも捨てられたことが事件になった。
しかし今や、ベネッセによる直島アートプロジェクトの一環で豊島にも魅力的な施設が立て続けにつくられ、世界中から観光客が訪れるようになった。
その筆頭が豊島美術館。
豊島美術館の衝撃というのはなかなかすごいものがあった。「美術館」とは言うけれど、それまでの展示作品が定期的に入替るホワイトボックス型の美術館とは考え方が全く違う。
まず、展示物というものがない。巨大な開口部から雨風が入り、室内ですらないので、建物ではないと言ってもいいくらいだ。しかし内部はとても広くて、2400㎡くらいある。これだけ広いのに、展示物はない。
ここで鑑賞できるのは、生き物のような水であり、大きな風であり、丸くて延々続くような光だ。
白いコンクリートむき出しの内部は、側面の壁がなく天井がそのまま床につながっているので、終わりが見えない。光はこのまあるい壁を伝い、すべてをぼんやり明るく照らす。
ところどころに細い、気をつけなければ見えないような糸が垂れていて、ゆったり動く大きな空気を見せてくれる。
そして、床のあらゆるところに、よく見ないと分からないくらい小さな小さな穴が空いている。ここから水が少しずつ出てくる。水は大きな玉になって、いよいよ丸い形を持ちこたえられなくなると、今度は蛇のような形に変わりながら床を転がっていく。床は強力なはっ水加工がされているので、普段見ることのできない大きな水玉に成長できるのだ。
ちなみに、この撥水加工は週に一度やり直されているらしい。水の出方にも工夫があって、一つ一つの穴から、あるタイミングで、それぞれの量の水が滲み出すようになっている。床全体には水玉が走り始めてようやく分かる程度の、ゆるい勾配がついている。
建物全体が作品として完結している、空間装置のような場所。地中美術館もだが、ここも行ってみないと分からないとしかいいようがない。
「地底から染み出る水滴」イメージ写真(台無し感)