石黒浩のつくったアンドロイド(ジェミノイドF)が出演しているということで見てみた。
白人女性とアンドロイドの会話を2・3歩引いたくらいの距離で淡々と描いており、終盤になるまでけっこうつまらない。よく考えたら、ジェミノイドFでなくともアンドロイド的な存在との関係を描いた映画はそれこそ古くからたくさんある。ジェミノイドFが他と違って本物のアンドロイドなところが画期的なはずなんだが、あまりにも自然に会話しているため違いがあまり感じられなかった。
しかし、終末の光景をパニックや劇的表現ではなく「少しずつ死んでいく世界」として静かに描いたのは、実際に原発災害を経験した日本でなければできないことだったと思う。
監督インタビューに「放射能による汚染という「見えない恐怖」を描くために空気の動きを可視化することに注力した」とあって、確かに全篇通して風でなびく草むらやカーテンの動き、少し靄がかかったような感じなど空気の量感を感じるのが特徴的だった。
一見平和で優しい世界のように見えるが確実に絶望が包んでいる。その中で少しずつ人が逃げて行き、死んでいき、世界はそのまんまそこにある。
特筆すべきは終盤以降だった。主人公が痩せ細って朽ちていく様子は圧巻。途中なぜ全裸になるのか不明だったが、この朽ちる演出のためだったんだろう。
ラストシーンは本当に誰もいなくなった世界に踏み出したアンドロイドの姿。アンドロイドの朽ち方からして、10年20年という単位ではなく数百年なのかもしれない。非常に神聖な雰囲気なのだけど、エクス・マキナの創生のような感じとは真逆だった。それはこのアンドロイドがあくまで主人公の人格と同じものだという特性から来ているのだと思う。
この終盤の雰囲気が面白くて、結果的には忘れられない映画になった。