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愚行録(2017年、日本)

愚行録

好きな映画評論家の方が面白いと言っていたので見てみた。この映画は小出惠介の不祥事の影響で公開がかなり制限されたようだ。作中の小出はけっこうヒドイ男なので、今となっては役柄がオーバーラップされてしまう。


特権階級と、それに囚われ愚行をおかす人たちを描いた面白い映画なんだけど、このテーマはこんな胸が悪くなるような設定を積み上げないと描けなかっただろうか。「3度の衝撃」というのがこの映画のキャッチコピーだが、その衝撃よりもこんな設定を考え付く原作者に驚く。非常に気分が悪くなる話なので、見るには体力が必要だ。

以下、ネタバレ注意。

 

映像が重厚で日本映画ぽくないなーと思ったら、撮影はポーランド人のピオトル・ニエミイスキという方が撮っているらしい。冒頭のバス内をなめるように横に滑りながら映すシーンがとても良い。コントラスト強めの暗い映像の中、一人一人の乗客の顔、沈んでいたり上の空だったりする人たち。その中で、重苦しい顔をした妻夫木聡の顔が出てくる。この映画の中で一番と言っていいくらいのシーンだと思う。この映像美は最後までよく効いていて、最悪の情況になった「兄妹の現在」をこの影の濃い映像で、「過去」を白っぽい映像で撮っていた(と思う)。


早稲田と慶応を思わせる二つの学校の出身者がストーリーのほとんどを占めていて、記憶に新しい集団暴行事件をイメージしていると思われるエピソードもあった。2校をいわば「特権階級」のように描き、主人公(妻夫木聡)はそこにいる軽薄な人々の愚行を外から眺めているような存在。特権階級の中で上手に泳ぐ人、遠巻きに嫉妬する人、もてあそばれる人が、妻夫木聡に自分のストーリーを喋りまくる。

ほとんどは会話で構成されていたと思う。それでも退屈しないのは、自分の中の下世話な部分が彼らの姿を楽しんでいたからだと思う。自分のストーリーを訴える人を真正面から捉え、そのいやらしさ、くだらなさを大写しにする。それを呆れたような顔で眺める妻夫木聡。しかし、実は主人公が一番の愚者で…、という話だった。見ている側は妻夫木に共感するだろうから、終盤彼が突然相手を襲うシーンは、驚きもあるがカタルシスもある。結果として兄妹で「彼ら」を抹殺したことになるのが味わい深い。

 

慶応と早稲田にそういう面があるのも事実だけど、あまりに一面的すぎると思うのはクソリプの範囲なんだろうか。ちょっと酷い。「何者」でも感じたが、矮小な話を顕微鏡で覗きながらじりじり描いているように思えて、見ている間は面白かったのだけど、読後感はつまらなかった。映画としては愚行録の方が数段上ではある。