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ファースト・マン(2019、アメリカ)

 

ファースト・マン オフィシャル・メイキング・ブック ビジュアル&スクリプトで読み解くデイミアン・チャゼルの世界

映画監督のデイミアン・チャゼルは、セッションで大好きになって、若いしとても楽しみにしていたのですが、10クローバーフィールドで「は?」となり、ララランドで「え…」となり、今や新作が出てもときめかない監督になっていました。10クローバーフィールドは脚本だけみたいだけど、その脚本が一番どうかと思ったからね。これについてはねちねちと「どこが嫌いだったか」を書き散らした記憶があります…。

嫌いな映画の感想なんて、嫌な思いをする人が出てくるし書かなきゃいいと思うんですが、私自身はけっこう、面白くなかった時でも同じように面白くなかった人の感想を読みたいので、何となく続けています。

 

前置きが長くなったんですが、ファースト・マンはどうだったかというと、実はけっこう良かったんです!大好きというわけではないけど、「いい映画だった…かも…」と思いました。

今までの作品と違うのは、これが実際に起こった実在の人物の話で、身内を制作陣に入れてリアリティにこだわって作った点だと思います。主人公に憑依してみていくような映画で、周辺人物も含めてかなり人物造形がリアルなので、起こっていることへのリアルな実感が沸いてきます。

 

月に行くというその当時誰も成し遂げていないことに対して、夢のような高揚感では全くなく、毎月のように友人のパイロットが死に、自分自身も死にそうな目にあうという現実。それと、希望に沸き立つ国民、黒人からの反感など、凡そ自分に実際起こっていることと結び付けづらい世論。家では妻と子が「もっと構え」と言ってくる…。この相反する様々な状況が、ものすごいストレスフルで…。久しぶりに「セッション」のキリキリ感を味わいました。

これが本当の話だというのだから、なんだか映像や演出に凝ったバージョンのクリント・イーストウッドみたいな印象を受けました。ある種ヒーロー映画なのに、主人公をヒーロー視しないとういのも似ている気がします。

 

さて、この超リアルな映画にはひとさじだけ「現実っぽくないこと」が盛り込まれており、それは見てのお楽しみなのですが、個人的にはそこがあまり好きになれなかったです…。現実って案外そういうものかもしれないのですが、「そこだけ」が人生で一番気にかかっていて、一番解放したかった記憶なのか…というのがね…。他にもいろいろあったじゃん!と思ってしまいましたし、その演出が実は本当のことじゃなかったと知って、ますますしっくりこなかった次第です。

全体としては良かったです。次回作は楽しみになりました。