MENU

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法(2018、アメリカ)

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法(字幕版)

 

めちゃくちゃ後悔したー。この映画を劇場で見なかったことに。2018年、色んな映画を見ましたが、この映画が2018年のぶっちぎりトップでした。

私が映画にはまり始めて以来、一番好きなのは「ノー・マンズ・ランド」なんですが、それと同等かそれ以上に好きな映画でした。全体的に楽し気な雰囲気・画なのに、徐々に立ち上ってくる不穏な空気感の「立ち上らせ方」が特に素晴らしかったです。

全体的に良さのかたまりでうまくまとめられなかったので、好きな点をダラダラと箇条書きします。

 

画面の中で、ほとんどの時間ムーニーが笑って楽しそうにしていること。それとは裏腹に、ムーニーを取り巻く不穏な雰囲気。

パステルカラーの街並みと、でっかい看板、ネオンカラーのムーニーの服。ドリーミーな風景の中での割と楽しそうな日々から漏れ出てくる、驚くほど貧しい暮らしぶり。

何度も間近で飛び立つ飛行機と、夢の国に来てはしゃぎ気味の普通の人たち。ここから出られない貧しいモーテル民の、張り付いたような日常。

明らかにヤバそうな空き家に子どもだけで入ったりなど、見ている側がただただハラハラするしかない日常を繰り返し見せられることによる、観客側の無力感。

「大人が泣く前の感じは分かる」というセリフ。そして、じわじわと崩れる日常と、母の売春相手に見つかってビクッとするシーン。全部分かってるんだよ、子どもは…。

売春が友だちにばれて友だちをボコボコに殴り、家に戻ると吐くシーン。どれだけ嫌だったか。そして、それ以外に生きていく道のない、詰んでいる感の重さ。

変態じいさんに気づいて追い出すウィリアム・デフォー。発見したときの、梯子に乗って危うい感じと、取り返しのつかないこぼれたペンキ。

ムーニーが好物として挙げていく料理のバリエーションの少なさ…。レストランでの食事と、ホテルでの朝食シーンの薄ら悲しさ。

ウィリアム・デフォーの最後のシーン。「ああ、逃げてんなぁ…。さて仕事に戻るか」みたいな感じ。児童福祉局に子どもを取り上げられる親を何人も見てきたような感じ。

「ムーニーが日常を、幸せを演じている」ということが集約される、楽しい悪ガキ的毎日からの突然の大号泣。思い出してまた泣きそう…。

花火の使い方。最初にウィリアム・デファーが煙草に火をつけ、家の明かりがポッ、ポッと点いていき、遠くでは花火が上がっているのがかすかに感じられる。最後は盛大に上がる本物の花火。でも、たぶん想像の中のできごと。たまらん。

 

本当に良さしかないんです!けっこうショッキングな、暗い気持ちになる映画なのですが、こんな明るいタッチの映画でこういう気持ちを引き出せるのに驚き。

ムーンライトも似た感じを受けたのですが、これはオシャレ感が強すぎて、スノッブな監督だな~という印象が勝ってしまいました。あの圧倒的オシャレな映像も相当いいものです。