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ワイルドライフ(2019年、アメリカ)

※ポールデイノではなくダノなのでは?と指摘されました 日本語訳はダノの方が正しいらしいので訂正します。が、面倒なので本文はこのままです…すんません

 

俳優ポール・デイノの初監督作品ということで見てきた。ポール・デイノはリトルミスサンシャインも好きだったし、最近だとスイス・アーミーマンで死体とお友達になる変人を好演している。パートナーはビッグ・シックのゾーイ・カザンで、「ワイルドライフ」はゾーイ・カザンもプロデューサー兼脚本家として参加しているようだ。

この二人のセンスは信頼しているし、ジェイク・ギレンホールにキャリー・マリガンと名優が参加しているのでいい作品なんだろうなと思ったが、実際いい映画だった。個人的にはもっとシュールでおかしみのあるものを期待していたんだけど、割とド直球にシリアスな映画だったのはちょっと残念だった。いや、残念というか、予想と違って真面目モードで、ふざけてたら窘められた子供のような気持ちになってしまっただけ。

 

父母に子ひとりの貧しい3人の家族が主人公で、この子供がポール・デイノにそっくり!でも、面白い感じの子では全くなく、ただただ真面目ないい子なんである。この彼が、プライドばかり高くて仕事がうまくいかない父親(ジェイク・ギレンホール)や、夫に愛想を尽かし浮気に走る母親(キャリー・マリガン)をじ~っと見る。この思慮深いタレ目から観察される、ひとつの家族の崩壊がこの映画の主題なのである。

普通の家族ならば思春期の子供こそ「自分」がぶれて荒れたりするものなのだが、この家族では両親が自分探しを始めてブレブレになっていく。永遠に続くと思っていた「安定した家族」は、実は回り続けるコマのようなもので、軸がぶれると途端に崩壊するものだった。

 

デイノのインタビューでもたびたび出てくるのだけど、両親もただの人間だという、誰にでも起こる思春期の気づきを描いている。自分自身、小学校高学年くらいか、突然両親がつまらない人たちに見えた時期があった。野生動物だと、その時期に群れを出て行ってしまうのだろう。それはまさしく題名にもなっている「ワイルドライフ=野生動物」で、人間も動物なのだということに他ならない。

「ワイルドライフ」という言い方は、作中1度だけ出てくる。浮気が判明し、激怒する父親が言う「なんて女だ」のように訳されていた部分。火を見て居ても立ってもいられなくなった父親の方こそが、先に己の野生性を表明していたのだけど…。

 

キャリー・マリガン、私と同年代なのだけど、一回りも上に見える疲れ切った中年女を演じきっていた。ここまで醜く撮らなくてもいいのに…というくらい。非常に痛々しい。ジェイク・ギレンホールもいつもの狂気をはらんだ危ない人を好演していた。むっちゃ怖い。けっこう目立っていたのが、母の浮気相手のミラー。小ずるいおじさんなのだけど、老練でどこか魅力のある人物だった。そのせいで、のちに父親が怒り狂って行動を起こした後に、なんとなく言いくるめられてしょんぼりと戻ってくるシーンにも説得力が出ていた。映画の中では、野生動物と最も遠い人物かもしれない。