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ロケットマン(2019年、アメリカ)

ロケットマン (オリジナル・サウンドトラック)

ボヘミアン・ラプソディーと同じ監督ということで、音楽映画はだいたい好きなので見に行きました。公開直後、休日、IMAXと割といい時間帯だったのですが、けっこうスカスカでしたね。実際に、アメリカでの興行収入はボヘミアン・ラプソディーよりもだいぶ低いようです。

エルトン・ジョンが昔過ぎたのかな?と思いましたが、デビューは1969年で、実はクイーンとほぼ同時期。夫氏と話していると、音楽の雰囲気が古いからでは?とのこと。個人的には音楽が昔っぽいとか今っぽいとかの感覚が分からないので何とも言えないのですが、エルトン・ジョンは女性よりも男性に人気があるような感じがし、映画に来るのは女性が比較的多いせいかとも思いました。

主演はラミ・マレックよりも若くて話題作への出演も多いタロン・エジャトンだし、エルトン・ジョンはクイーンに負けず劣らず華やかな存在なので、同じ監督でなぜここまで差がついたのか不思議です。しかも、タロン・エジャトンは本当に歌っている!歌が上手いのにも驚いたけれど、ステージでのカリスマ性はかなりのものでした。

 

実は、映画としてはボヘミアン・ラプソディーよりもかなり良くできていると思ったのです。ライブエイドに向かってシンプルに一直線に作られた、どこかPV映画のようだったボヘミアン・ラプソディーに比べて、ロケットマンは幼少時から現在に至るまで、エルトン・ジョンの音楽性がどのように作られたか丁寧に描いているものでした。全篇ミュージカルでもあるのですが、それを膨大にあるエルトンの曲で表現しているので理解が深まります。作詞家の相棒との曲作りシーンはどれもワクワクして素晴らしいものでした。

 

また、ボヘミアン・ラプソディーでは家族やメンバーたち、それから恋人の支えが描かれていたのに対し、ロケットマンはかなり孤独。永遠の片思いである作詞家の相棒、自分を裏切り続ける恋人(GOTのロブ・スタークの人!)、最後までひどい言葉を浴びせ続ける家族。フレディーは周りの支えに気づき、心を開いていくことで立ち直っていくわけですが、エルトンは結局誰からも欲しいものは貰えず、代わりに「自分の力で、自分を認めて愛すること」に気づき、一人で立ち直っていくわけです。認めてほしい人に認めてもらえず、愛して欲しい人に愛してもらえない局面は少なからずあると思いますが、それができるのは自分だけだということに気づけると人生はもっと楽になるはず。史実はどうか分かりませんが、現代映画として、これはめちゃくちゃにいいテーマだと思いました。

 

また、もう一つのテーマとして、報われない思いを音楽にすることということがありました。エルトンはゲイでしたが、ずっと好きだった作詞家の相棒がストレートであることで、永遠に片思いを続けることが運命づけられてしまったのでした。しかもさらに複雑なことに、彼の詩にはエルトンとの出会えた喜びや、作詞家の女性の恋人のこと、そしてエルトンとの決別など、曲を流すだけでエルトンと彼の一生が描けるほど全てが書かれているのです。それをずっと代わりに歌い続けるエルトン…。なんというねじれた関係!この奇妙な共犯関係のようなものがすさまじくて、どこか妖精のような純粋な雰囲気のあるこの作詞家が恐ろしく感じられました。浜崎あゆみさんの暴露本のことをちょっと思い出したりもしました。彼らにとって人生の辛苦は音楽の糧であり、自分を壊していく毒でもあるのかもしれません。

 

ボヘミアン・ラプソディーは製作総指揮・監督がブライアン・シンガー監督だったのですが、ロケットマンは製作にエルトン・ジョン本人が入っていることも大きいのかも。前作はショーアップされた分かりやすく盛り上がる映画だったのに対し、今作は本物の葛藤に踏み込んだセラピーのような映画だったからです。

実は、セラピーの様子は実際に映画の軸になっています。最後のシーンで、エルトンがセラピーの場に現れた幼少の自分自身を抱きしめるシーンが良すぎて…。本当に素晴らしい映画だと思いました。