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「Her/世界でひとつの彼女」最大のネタバレは、サマンサの声が○○だってことだ!

her/世界でひとつの彼女 [DVD]

これは絶賛されていたのを見かけて、アマゾンプライムビデオに入っていたのでみました。「マルコビッチの穴」のスパイク・ジョーンズ監督が、脚本までやっています。なるほど面白かったけど、実は最後の30分まであんまり面白く感じられなかったのです。でも最終的にはかなりハッとさせられ、人生で何度か思い出しそうな作品になりました。ネタバレ感想です。

 

 

~空白~

 

 

始まって1時間以上、ひたすらラブロマンス系の話が展開され、恋愛モノに興味が無い私は「どうでもいいなー」と思いながら観てしまいました。ただ、これって恋愛の話じゃなかったんです。リアルな相手と関係を築かすに、SNSやRPGなどで「アバターのような自分」と「仮想的な相手」という関係でしか正直に語れない、現代病とも言える状況を皮肉っていると取れる映画でした。

 

主人公は妻と離婚協議中ですがどうしても受け入れられず、人のラブレターなどを代筆する仕事に就き、たぶんそれなりに高収入で、同じような知的な友人も多く、一人で都会の良い感じの家に住み、日々RPGで遊んだりデートの相手にがっつかれて引いたりといった暮らしを送っているという、現代的な人物です。そこに体を持たないAIである「サマンサ」が絡んできて、彼とリアル(?)な関係を築こうと働きかけていくことにより彼が変わっていきます。

最初は「元妻は親とうまくいっていなくて…僕と暮らし始めて人生が変わった。卒論も修論もアドバイスしたんだ」と言っていた主人公ですが、次第にどちらかというと元妻は外交的で有能な人物であったこと、彼の方が心を閉ざしていたことなどが明らかになっていきます。元妻は文筆家として成功していますが、主人公はニュースライターだったのに今は名前が出ることもない手紙の代筆の仕事をしています。はっきりとは描かれませんが、主人公が心を閉ざした理由もその辺りに原因がありそうです。

サマンサはサマンサで主人公と恋に落ち、体が無いことを気に病んだりもするのですが、そのうち知能をどんどん発展させて同時に何人もの人間と関わりを持ち、コンピュータ上の他の知能と交流して進化していきます。(関係ないのですがサマンサの声はスカーレット・ヨハンソンが演じていて、進化していく様子がLUCYの時の彼女を思い出させて面白かったです。)

サマンサは人の役に立つために開発されたAIで、色んな人にインストールされています。しかも知能が高く、感情があるのでこれまたたくさんの人と恋に落ちているのです。これに気付いた主人公は「えっ!?世界に一つのher(僕の彼女)じゃなかったの!?今も同時にいろんな人と会話してるって!?」………と思ったかどうかは分かりませんが、まあ大変ショックを受けます。

しかし、自分の仕事を振り返ってみると…色んな人の人生に手紙という形で関わり、相手の心を動かしながら、当人たちとは全く無関係なところにいる…やっていることはサマンサよりもある意味ヒドイわけです。手紙の数々を手にして、「僕は、リアルに人と向き合ってこれたんだろうか?」(と思ったかどうかはわかりません。)

結局サマンサはそのまま飛躍的に進化していき、興味がなくなったのか他のAIとともに人間から去って行ってしまいました。振られた格好になる主人公は、初めて元妻に正直な思いを伝え、同じくAIに去られて意気消沈していた元カノと肩を寄せ合ってビルの屋上で朝焼けを見るのでした。

なんかね、この時の二人の背中は、みじめさと希望が混じったような不思議な感じがしたものです。たくさんの情報を吸収して進化していったAIに、人間が置いて行かれたようなシーンです。人間って、技術で色んな人と大量に関わって、影響を与えることができるようになったように感じるけど、本当にそうなのか?目の前の相手と交流が本当にできているのか?スマホを覗きこんでいるあなたは、目の前の人よりも大事な交流がそこでできているのだろうか?

 

まあ、そんなことを想いました。

 

世界観もすごいぞ、さりげないけど

近未来LAの描かれ方がかなりさりげなくて魅力的でした。屋外はひたすら靄がかかったようなスモッギーな感じで、家の中は窓の外の未来的な風景とは違って前時代的なデザイン。手放しで電話する人々、しゃべる相手はPC?人?みんな変な人みたいに見えます。家じゅうにゲームの世界観が広がるようなRPG、ゲームの登場キャラクターを実在の人物のように楽しそうに語る主人公。サマンサが入っているスマートフォンや、入室するとゆるっと電気がつくペンダントライトなどのデザインが少し前のモダニズムデザインみたいなのも「ありそうな未来」っぽくて、いちいちいいなあと思いながら観入ってしまいました。妙につるっとした家電や情報量が多いUIなどの、いかにもな未来描写がありません。トゥモローランドがレトロフューチャーなら、これはリアルフューチャーといった感じ。

主人公や周辺の人物の職業などが「文筆家」「手紙代筆業」「映画脚本」、「弁護士」など、これならコンピューターで代用できないだろうと思わせるものに限定されているのも面白かった。こういう知的産業につけない人たちの未来はどうなっているのだろう…?などと思ってしまいました。

主人公の友人たちが当たり前のように「サマンサ(AI)とダブルデートしよう」と言って、本当に一つのカップルと主人公+AIで旅行に行ったりするあたりもめちゃくちゃ面白いなと思いました。みんなイヤホンでサマンサと会話するんですよ。こんな未来があるんでしょうか^^;

また、体のないAIが有り余る表現力で他の誰よりも存在感を示しているのも面白すぎました。「このいい雰囲気を表現する音楽をつくってみたの」とか言ってサラリと自作の曲を演奏するサマンサ。んで、それを主人公に演奏させて自分は歌うサマンサ。「あなたの手紙を本にしてみたの」と装丁して出版社に郵送するサマンサ。サマンサ有能すぎる。私にはこんな表現力は無い、というか、普段の会話ですら近くにいることを良しとして最小限になりがちなのに!

サマンサの声がスカヨハのセクシーなかすれ声というのも高ポイントでしょう。しかし、スカヨハには体がある。正直なところ、サマンサの声をききながらスカヨハの美しい肢体がチラチラしてしょうがありませんでした。ある意味、一番のバレてはいけないネタバレは「サマンサ=スカヨハ」という事実だと思いますよ!

 

最後に、スマホのある風景からスマホだけ抜き取った写真集を張り付けて終わります。この作品も結構ショックだったなあ。