IMAX2Dで。山中の別荘という限られた場所で、人間は片手に納まるほどしか出てこない低予算の映画*1ですが、今年のアカデミーで視覚効果賞を獲っています。ストーリーが整然としており、映像はスタイリッシュで非常に良かったです。
監督はアレックス・ガーランド。私はゾンビ映画の「28日後(脚本)」と「28週間後(制作総指揮)」しか見たことありませんでした。ちなみにディカプリオ主演でダニーボイルが監督した「ザ・ビーチ」の原作者らしい!元々ストーリーテラーなのですね。テーマとしては、「終わりの始まり」のような話が多いのかな。本作も終末の予感のする「じわ怖」という感じでした。
可愛らしいAIの役をしているのはアリシア・ヴィキャンデル、「リリーのすべて」で苦悩する妻役を好演してアカデミー助演女優賞を受賞した方です。本作は彼女の魅力が重要な役割を担っています。「リリーのすべて」では包容力のある成熟した女性でしたが、本作ではとにかく若々しく、高校生くらいにも見えます。*2この役者さんは童顔で小柄なのですが、ここまで色んな年齢・キャラクターの役をこなせるのは素晴らしいなと思いました。
以降ネタバレ感想です。筋を知らない方が面白い映画なので、未見の方は読まずに見たほうがいいかも。
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王道のサスペンススリラー×AI
「AIが怖い」という話としては、「2001年宇宙の旅」や「マトリックス」、「ターミネーター」などが有名ですが、本作は人類とAIの完全対決という話ではありません。かと言って「鉄腕アトム」「ドラえもん」や「A.I.」「チャッピー」などに描かれるあたたかな交流でもなく、見知らぬ隣人と関係を構築するようにAIと交流する「ように見える」のがミソ。
例えばマトリックスやターミネーターでは「人類が愚かなので地球はAIが乗っ取る」→全面戦争→AIによる支配という話だったように思います。一方で本作はAIの目的や本心が明らかにされず話が進むので、「このAIは善か悪か?」という話ではなく、純粋な心理戦として見られます(AIなのに!笑)。もしAIではなく人間の女の子で置換えたなら、普通の良くできたサスペンス・スリラーとして成立してしまう、そんな映画でした。AIを抜きにするとけっこう王道なファム・ファタールものなんですよね。
AIとの出会いまで
Googleのような検索サービスの会社BlueBookに勤めるプログラマーのケイレブ君は、創始者のネイサンの別荘に1週間遊びに行ける権利が当たって大喜び。ケイレブ君は「アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜」でちゃっかり者の主人公を演じていたドーナル・グリーソンです。レヴェナントにも出演していたらしいけれど全く気づきませんでした…。私だけかもしれませんが、なんだか印象の薄い方です。この「どこにでもいそうな会社員」という感じが、この役にハマっているように感じました。
↓この右の人。今回は赤毛でなく金髪です。色素が薄いから薄く感じるのかな?
ケイレブ君はワクワクしながら創始者の別荘に向かうのですが、ヘリを数時間走らせてもまだつかない。パイロットにいつ着くのかと尋ねると、「もう2時間も前から敷地内だよ」と言われ別荘の広大さに驚かされるのですが、ここから既に怖い。広いとはいえ完全に山の中。そんな僻地に1人で連れていかれるの?さらに、「これ以上はセキュリティの関係で近づけない」とヘリは別荘からかなり遠いところにとまり、早々に飛んで去っていきます。ようやく会えた創始者ネイサンもなんだかクセのあるマッチョで付き合いづらい。
エクス・マキナにはフォースの覚醒のハックス将軍(ドーナル・グリーソン)とポー・ダメロン(オスカー・アイザック)が出てるけど、どっちもフォースの覚醒の時と正反対の役柄なのが面白い。 pic.twitter.com/Phk2UA4aaX
— DOPINK__panda (@DOPINK__panda) 2016年6月12日
こうやって徐々にストレスをかけられていき、ケイレブ君はどんどん萎縮していきます。ネイサンがトレーニング後の汗まみれの体でペタペタ歩き、ケイレブ君のベッドにドカッと寝転んだシーンがすごくイヤ~でした…。もてなす気はなさそうですね。
エヴァとのセッション
そんな中で引きあわされるのがAIのエヴァ。隔離されたガラス張りの部屋で、体を幻想的に光らせているエヴァと初めて会うシーンは感動的でした。ケイレブ君は、エヴァが人間と見分けがつかないAIなのかどうか判断するための「チューリング・テスト」をネイサンに依頼されたのです。この後エヴァとは何度も会ってインタビューをし、チューリング・テストを進めることになります。
6/12 エクス・マキナ@川崎 一瞬も目が離せなかった。無駄がない。ストーリーも音響も秀逸。終わった後もしばらくドキドキしてて、もう最高ってなった。2016年公開映画では予想通り暫定一位になった。 pic.twitter.com/X1gyQQVQ9U
— 史織 (@ShAL1029) 2016年6月16日
でも、変ですよね?そもそもケイレブはエヴァがAIであることを知っているのに、テストになるの?その違和感は後から効いてきました。
テストが進む間、ネイサンはずっと独善的で傲慢な嫌な奴であり、ケイレブ君と仲良くなることはありません。一方でエヴァはケイレブに好意を抱いているようで、ケイレブはすっかりエヴァのことを気に入ってしまいます。エヴァが恥ずかしそうに野暮ったい小花柄のワンピースに毛糸の長い靴下をはいてきたシーンは、かなりあざとくて「もしかしてエヴァはわざとケイレブに好かれようとしているのかな」と思わされました。そんな絵本に出てきそうな格好、オクテ男子が好みそう(´ー`;)
ケイレブはネイサンに「なぜエヴァを人の形にしたんだ?灰色の箱でもいいのに」「僕のことを好きになるように、エヴァをプログラムしたのでは?」などと鋭い質問を投げかけるのですが、ネイサンはジャクソン・ポロックの絵画を持ち出して「理由など考え出したら何も作れない」「エヴァはケイレブを好きになるようにプログラムしてはいない(たまたま好きになっちゃうことはあるかもね☆)」と返します。
この二つのヒントがあると、「エヴァの外見には理由がある」「エヴァはケイレブのことを好きになったのではなく、好きになったように思わせる理由がある」となります。エヴァはケイレブに好かれるために、ゼロからネイサンが作り出したAIだということです。
その後ネイサンがつくった他の自分好みのAIたち…アジア系、アフリカ系、白人…等のアダルトな外見を見る機会ができ、見ている側としては「エヴァ=ケイレブ対策機説」という思いを強くしたのですが、ケイレブはエヴァにほれ込んでしまっており気づきません。ケイレブ君は頼りなさそうだけどけっこう優秀、なのですが、家族も恋人もいない孤独な青年という設定なんですよね。しかもこの抑圧された状態に長時間置かれて、すっかりエヴァに入れ込んでしまったというわけです。結局エヴァが逃げるために画策していることがネイサンにバレます。
チューリングテストの本当の理由
ところがネイサンはこのことを知って大喜び。ケイレブが戸惑っていると、「今回のチューリングテストは、エヴァがケイレブを説得してエヴァを逃がす手伝いをさせることがゴールだった」とタネ明かしをされます。そのために人の良い孤独なケイレブが選ばれ、ケイレブの好みに合わせて童顔のエヴァがつくられ、エヴァはケイレブを説得するために好かれるようなことをしていた、と。ケイレブはショックを受けますが、同時に既にエヴァを逃がす算段が整っていることをネイサンに伝えます。
ケイレブを騙したつもりでいたネイサンは逆に自分が陥れられて激怒しますが、時すでに遅くエヴァは隔離室から出ています。会話ができず高度な知能を持たないはずの他のAI、キョウコ*3に何やら耳打ちしてネイサンを襲わせ、自らとどめを刺して逃走。ケイレブは部屋に閉じ込められたまま置いていかれます。
↓今回あまり触れなかったけど、キョウコさんも存在感抜群でした。
序盤以外はケイレブとエヴァとネイサンとキョウコという4人だけで話が進むけどキョウコ役のソノヤ・ミズノが存在感がある。オスカー・アイザックとのダンスも最高👍🏻ちなみにタイトルはラテン語の「デウス・エクス・マキナ=機械仕掛けの神」から。 pic.twitter.com/Zo5BzNRTHG
— エス★Nightwalker (@wolf_peacemaker) 2016年6月12日
そしてはじまりへ
エヴァが人工皮膚を身にまとい、ゴージャスな髪型と白いドレスを着て外に降り立つシーンは爽快で感動的でした。結局エヴァにとって、ケイレブもただの道具でしかなかったというわけです。
↓エヴァが逃げるシーンが瑞々しくて美しい。創世記みたい。
@BlackGirlNerds #TuesdayNightBotBoos Ava 'Ex Machina' #HeyBoo pic.twitter.com/By0y5uvSht
— Bruce Cares (@Bruce_Cares) 2015年12月23日
狭い部屋でケイレブにじっとり見られながら、ショートカットにダサい服を合わせて着ていたシーンとの対比が鮮やかすぎる。個人的にケイレブ役のプログラマーさんが苦手だったので、ここのシーンはかなりスッキリしました(´▽`)でも例えばベン・ウィショーがこの役を演じていたら、ものすごく感情移入して「ヒドイ!ちゃんとケイレブも連れて行ってよ」となっていたことはほぼ間違いないので、人間は結局外見で物事を見てしまうというわけですね(何)でもベン・ウィショーだったらあのダサい服が好みという設定は耐え難いしな…難しいな映画は(何)
↓なんとなくとばっちり。オスカー・アイザックも相当だけどドーナル・グリーソンも何か嫌だな、と思われる方がこの映画にはいいんだろうけど。
新ボンド決まってもQはベンに続投してもらいたい(>_<) ジワジワとトムとベンのツーショット見たい気持ちが!#新ボンド #トムヒドルストン #ベンウィショー #Q pic.twitter.com/cRJw6yQmky
— k_k_ (@k_k_keys) 2016年6月20日
また、結果的に想定外のことをして展開点をつくったのがケイレブ君だったので、ここはアルファGOのAIのようにエヴァが起こした想定外の行動だった方が個人的には良かったです。それが創造主ネイサンに直接手を下したこと、になるのかなー?
おまけ
・映画の舞台となる別荘は、ノルウェーにある「ジェヴェー・ランドスケープホテル」。スカンジナビア系建築事務所のイェンセン・アンド・スコドヴィン設計のかっこいホテルです。やけにインテリアが北欧系だとは感じたけれど、正統派スカンジナビアンデザインだったのですね。高くても一部屋4万~とお手頃。行くのが大変そうだけど、ぜひ一度泊まってみたい!ポロックやクリムトの絵はかかっていないと思いますが…。
Boutique hotel | Juvet Landscape Hotel in Valldal, West Norway, Norway | Welcome Beyond
・ネイサンとキョウコのダンスが何気にキレッキレで良い。キョウコさんは元々バレーダンサーらしいので分かるけど、ネイサンはたくさん練習したんだろうなと思うとじわる。
『エクス・マキナ』大ヒット上映中! #エクス・マキナ https://t.co/CLbROO8lX4 pic.twitter.com/LlAC4eqwnh
— エクス・マキナ (@exmachina_jp) 2016年6月12日
映画ではしばしば「唐突にキレキレのダンスシーンが挿入される」という現象を見るんだけど、何か意味があるんだろうか。
おしまい。