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沈黙-サイレンス-(2017年、アメリカ)

遠藤周作の原作のファンだったスコセッシ監督が、長い年月をかけてやっと実現した映画だそうです。リーアム・ニーソンやアンドリュー・ガーフィールドと並んで、イッセー尾形や浅野忠信などの日本人俳優が出演しています。外見がかなり違うので気づきにくいのですが、小松奈菜や加瀬亮も出演しています。去年から超楽しみにしていたので、いそいそ見に行きました。

 

ただ、小説の方が、良かった。小説を読んだのははるか昔ですが、映画化されて新たに得た感動はありませんでした。小説に忠実な内容なのですが、説明的で冗長な印象です。小説未読のほうが良いと思える映画なのかもしれません。

 

中盤までは、イッセー尾形さんや塚本晋也さんの演技が素晴らしくはまっていて、映像が幻想的ですごく引き込まれました。特に小舟が霧の中を進むシーンや、つかの間の休息で村人二人に発見されてしまうシーンなど、詩的で美しい。イッセー尾形さんの曲者っぷりは、西洋文明に対して完全な異物に見える日本人の中では妙に説得力があり、洒脱な印象だったし、塚本晋也さんの真っ直ぐな信仰心はパードレ側を超えるほどの熱さを感じました。ですが、後半からはセリフが多くて説明的なのが気になって気になって…。アメリカでも理解できるように、という配慮なんでしょうか。セリフ半分くらいにしてほしい。

長崎の農民と異国のパードレたちが瞬時に意思疎通し、心を通わせているのはイージー過ぎるように思えたし、最後はキリストまでしゃべりだしてうへーとなってしまいました。小説だと文字でキリストの言葉として書いてあっても気にならなかったのですが、映像だと「声」があるので、妙に敷居が低いような感じがしてしまいました。ロドリゴや井上などの説明役が喋らなくなってからは、説明の為だけに出てくる人のナレーションが始まります。この人には思い入れもないので、後半の話が長い長いつけたしのように感じられました。

 

小説を読んだときは、ロドリゴが牢につながれているときに聞こえてくる耳障りな大いびきが、実は逆さづりの拷問を受けている信者の声だと気づくシーンが衝撃的でした。ただ、映画ではそこまでの印象が無く。これはロドリゴが転ぶきっかけの大事なシーンなので、個人的にはもっとなんとかならなかったのか、と思いました。むしろロドリゴが踏み絵を踏まされるシーンはやけに躍動的で、ちょっと面白く感じてしまったりしました。(ちょん、と足をつけたあとにフライング土下座みたいになるのを、スローモーションでかっこよく撮っている。こんな野生動物の狩りを撮るようなシーンにする必要ある?)やり過ぎ演出と言えば、最後の最後も、あれ、いるの?普通に手に持たせて焼けば良くない?それまでのきれいだったり生々しかったりする魅力的な情景の印象から、いきなり「ハリウッドでござい」となったようで興ざめでした…。

 

散々disっておいてなんですが、やせこけて泣き叫ぶスパイダーマンとカイロ・レン(違)は悲壮だったし、信じているものを奪われる痛みが確かに描かれていました。キチジローは小説の印象と違い、これはこれでいいなと思いました。小説ではもっと忌むべき人物という印象だったのに、映画では窪塚さんの顔が幼く見えるせいか、変な話ですが、かわいさや親しみを感じました。人間のあるべき姿という気さえしました。