直島のメインコンテンツと言えば地中美術館だと思う。ある一つの展示品の為だけに、細部までアーティストと建築家が意見をぶつけてつくった、恒久展示のための建築物というのは、世界中探してもここにしかない(たぶん。間違ってたらゴメンね)(もちろん豊島美術館もそう)。この手法は”site specific works”というらしいんだけど、一般的には自然物の中に設置してあったり、期間限定だったりすることが多い中、建築家を巻き込んで大規模な施設にする例はあまり聞かない。
建設は2004年だそうで、わたしはどうやら建設すぐのときに見に行ってたみたいだ。その頃はここと、ベネッセアートハウスと、いくつかの家プロジェクトしかなかった。(ちなみに、宿も飲食店も今のように充実していなくて、けっこう大変だった。)その時は地中美術館の印象が強すぎて、他に何を見たか覚えていないくらい。
地中美術館の魅力は一言で言い難い。
例えば、モネの睡蓮を自然光で見られるのはここだけだろう。美術館の近くには、モネの睡蓮を再現した庭もある。ウォルター・デ・マリアの大規模な恒久展示もここだけ。ジェームズ・タレル…はけっこう色んなところで見られるか。
誰かに聞かれたら、こんなような「コンテンツのレアさ」なら説明することができる。
ただ、それだけではうまく説明できない。館に入ってから出るまでの、一連の経験としての魅力が大きい。
地中美術館は文字通り丘陵地に埋まっており、「モネの庭」を通過し、まず地下2階から入っていく。最初は緑(名前失念)が生い茂る三角形の庭をぐるりと廻りながら、暗い細い廊下を通ってウォルター・デ・マリアの展示室につく。緑の正三角形を通って、黒い巨大な球と金色の三角柱、四角柱、五角柱が支配するピリピリした空間に入るというのが、自分が「任意の点P」になったようで不思議な体験。球は強力な重力を感じる。いったい、どうやってこんなところに来たのか、球よ。一つ一つの柱は、球の力に引っ張られて向きや形を変えているかのように見える。ウォルターデマリアの展示は個人的に一番好きで、できればこういうところに住みたいくらいだ。
次は、白い人の顔くらいの大きさの角ばった石が敷き詰められた正三角形の庭を通る。ここは先ほどとは打って変わって、墓場のような空間。石に乗ってみると意外と安定感があり、楽しい…などと思っていると、中庭を見上げてクラリとする。ここの造作物には軽さがない。どこにいても強い重力を感じ、深い地の底なんだという感じがある。
次の展示室はジェームズ・タレルの「オープンスカイ」と「オープンフィールド」。遠近感を狂わせるような展示物で、それぞれ「そらの風景」と、「どこか分からない青い空間」がぺたりと張り付いているように見える。幼児にははるか遠くの遠近感はピンとこないらしく、娘はよく分からないようだった。それでも「青い空間」の方の異様さは感じたようで、怖がってすぐ出てきた。
ここを出たら、ようやく地上に上がる。「白い石の中庭」に面した廊下を、今度は1フロア上がっていく。数メートル上がっただけで、ずいぶん身軽に感じられた。最後の展示は、クロード・モネのいくつかの睡蓮。さっきまでの強い重力感と奇妙な遠近感の世界と比べると、睡蓮のなんと軽やかでおぼろげなこと。音が響かないように、角を取った大理石モザイクの上を、柔らかい素材のスリッパで歩かせるところも健在だった。10年前は紫外線を防ぐガラスの薄い紫色が気になったが、今見てみるとそれも含めて夢の中の出来事のように感じられた。
これが一連で体験できるのが地中美術館。最後は地中カフェに行って、高台から海を眺めるのが良い。
全体として、いわば地の底から水面を通って空に上がっていくような体験だ。
ちなみに、地中美術館周辺には李禹煥美術館やベネッセハウスミュージアムがある。ベネッセハウスミュージアムは一連のアート施設の中で一番古く、なんと1992年オープンらしい。なんでも早く閉まってしまう直島の中では、ここだけ21時まで開いているのでありがたい。時間がなく駆け足で見たが、大きい石の上でぺったりと寝るのが10年前と変わらず気持ち良かった。
ハウスミュージアムの近くには有名な黄色かぼちゃもある
どこを見ても、目にしみるように海がきれい。