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さようなら(2015年、日本)

さようなら

石黒浩のつくったアンドロイド(ジェミノイドF)が出演しているということで見てみた。

白人女性とアンドロイドの会話を2・3歩引いたくらいの距離で淡々と描いており、終盤になるまでけっこうつまらない。よく考えたら、ジェミノイドFでなくともアンドロイド的な存在との関係を描いた映画はそれこそ古くからたくさんある。ジェミノイドFが他と違って本物のアンドロイドなところが画期的なはずなんだが、あまりにも自然に会話しているため違いがあまり感じられなかった。

しかし、終末の光景をパニックや劇的表現ではなく「少しずつ死んでいく世界」として静かに描いたのは、実際に原発災害を経験した日本でなければできないことだったと思う。

監督インタビューに「放射能による汚染という「見えない恐怖」を描くために空気の動きを可視化することに注力した」とあって、確かに全篇通して風でなびく草むらやカーテンの動き、少し靄がかかったような感じなど空気の量感を感じるのが特徴的だった。

一見平和で優しい世界のように見えるが確実に絶望が包んでいる。その中で少しずつ人が逃げて行き、死んでいき、世界はそのまんまそこにある。


特筆すべきは終盤以降だった。主人公が痩せ細って朽ちていく様子は圧巻。途中なぜ全裸になるのか不明だったが、この朽ちる演出のためだったんだろう。

ラストシーンは本当に誰もいなくなった世界に踏み出したアンドロイドの姿。アンドロイドの朽ち方からして、10年20年という単位ではなく数百年なのかもしれない。非常に神聖な雰囲気なのだけど、エクス・マキナの創生のような感じとは真逆だった。それはこのアンドロイドがあくまで主人公の人格と同じものだという特性から来ているのだと思う。

この終盤の雰囲気が面白くて、結果的には忘れられない映画になった。

SING/シング(2016年、アメリカ)

SING/シング【通常版】(吹替版)

イルミネーション・エンターテイメント制作の長編アニメ映画。

ここは制作費が低くて、なんとピクサーやディズニーなどの半分くらいでつくっている。それは例えば街並みの表現力なんかの差に出ているんだけど(SINGの街並みはベイマックスのサンフランソーキョーやズートピアの街並みにはかなり劣る)、肝心のキャラクター造形は非常によくできていて個人的には問題なし。それでいて興行収入はベイマックスを上回っている。すごい。

また、昨今のポリティカルコレクトネスやダイバーシティー重視のアニメ映画とはちょっと毛色が違って、割とステレオタイプなキャラクター造形がそのまんま出ていたリする。あまり思想に政治性や社会性がないように思える。個人的には、説教臭くなくこれはこれでアリだと思う。

劇場で公開するタイプのアニメ映画は親も楽しませる必要がある。ポリコレ系のアニメ映画だと政治的な裏テーマを読み解く楽しみがあったりするのだけど、イルミネーション・エンターテイメントだとこれも直球で、昔の音楽や音楽にまつわるネタをちりばめて大人にも楽しめるようにしてある。

 

前置きが長くなったけど、そういった背景からしてSINGはかなりよくできた作品だった。

色々な動物が出てきて象徴的に人間の葛藤を描きつつ、かと言って説教臭すぎることはなく、エンタメに徹している。CG的な描写は劣るけど、ストーリーに入り込めるため気にならなかった。

 

ビジュアルによく登場しているブタの女性は子だくさんの主婦。毎日子供の世話と家事に明け暮れ、自分のことは二の次。仕事が忙しい夫にあまり振り向いてもらえず、自信がなくなってきている。この主婦を筆頭に、信心深い大家族と一緒に暮らす内気な象の女の子、家業を手伝わされる窃盗団の息子、ダメ男に尽くすパンクロッカーの女の子、自尊心ばかり強いストリートミュージシャンなど、自分を見失いかけているキャラクターたちが歌うことによって自分を取り戻す。それぞれにモデルがいるのだろうと思われるくらいキャラクターがリアル。しっかり一人一人の背景を見せているので否応なく引き込まれた。

主人公はしがない劇場のオーナーだが、この人物もかなりリアル。音楽業界はヤクザなところなので子供向けアニメにするにはかなり理想化されているのだろうと思って見てみたが、そんなことはない。いい加減で嘘つきな主人公が情熱を振りかざして周りをだまし、なんとなく成功していくのをそのまま描いている。(もちろん、音楽プロデューサーがみんないい加減で嘘つきっていう意味じゃないよ。)主人公に利用されつつも仲良くやっている、無気力なお金持ちの息子がまたリアルで…。よくわかんないけどうまく行っているような人の周りには、高確率でこういう人がいる。

 

4歳の娘も一緒なので日本語版を見たが、声優に本物の歌手を当てているのが良い。最も歌がうまい象の女の子はMISIAらしい。普段ボソボソとしかしゃべらないキャラクターなのが絶妙に合っていて、最後の歌に至るまで違和感なし。他にもスキマスイッチや坂本真綾などが声を当てている。

 

最後に向けてどんどん期待度が高まっていく構成も見事だし、ラストコンサートは冒頭の主婦バーレスク演出から涙が出た。尊大なストリートミュージシャンがマイウエイを歌うのはそのまんま過ぎて笑えちゃうんだけど、マイク演出が面白い。歌が続いて画替わりがしないところに、ゴリラ父がキングコングばりにビルの屋上を走って会いに来る演出をはさむのもうまい。

最後は三日月が本物の満月になって、めでたしめでたしというわけだった。

ジャングル・ブック(2016年、アメリカ)

ジャングル・ブック (吹替版)

 

小さい頃、ジャングルブックが大好きだったので楽しみに見た。幻覚を見せる大蛇や、クマのお腹の上でモーグリが歌うシーンなど絵本を忠実に再現したシーン満載で実に楽しめた。何より赤いパンツ姿のモーグリが活き活きと動き回っているのが嬉しい。

4歳の娘も一緒に見た。時々残虐描写なしのちょっと怖いシーンはあるものの、子供も安心な映画。娘も最後まで楽しんでいた。ストーリーもよく覚えて、しばらく話題にしていたほどだった。最近は長い映画でも一緒に集中して見られるようになって楽しい。

 

動物たちのCGさすがに良くできていたのだけど、特に人間みたいな表現力と動物らしさのバランスがうまくいっていたように思う。サルの王様はかなり人間に寄せた表情になっていたが、他の動物はセリフに合わせてなんとなく口元が動くくらいで、動物らしさの方が目立つ。また、毛並みが汚れていてリアルな感じ。メイキングを見てみると、ほぼ真っ青な空間でモーグリが演技しており、改めてCG技術と役者さんの演技力にびっくりするなど。

 

普通のアニメーションよりも娘の食いつきが良かったのは、動物園に行くような楽しさもプラスされていたからだと思う。特に大人におすすめな点はないものの、子供と一緒に見るには最高なんじゃないだろうか。

アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場(2015年、イギリス)

アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場(字幕版)

 

「グッド・キル」から2年、ドローン攻撃の本場アメリカから舞台は移ってイギリス。ただし、攻撃するのは同じくラスベガスの、イーサン・ホークが勤務していた基地。と、無関係の2作品をあえてごっちゃにする書き方をしてみたが、この2作品は両方見るとますます興味深い。慎重なイギリスと攻撃的なアメリカ、人道的なイギリスと合理的なアメリカ、決定が現場で覆るイギリスと覆らないアメリカ…などなど、2国の見せたい表情の違いが如実に表れている。

実際、「アイ・イン・ザ・スカイ」は「グッド・キル」で起こる一つ分の攻撃を100分かけて上から下まで審議する話で、非常に丁寧な描写でドローン攻撃の矛盾を描いている。

 

攻撃される対象に「鳥瞰から」スポットを当てているのは同じだが、「アイ・イン・ザ・スカイ」ではさらに現地の住民に視線を合わせて生活を描き、現地で活躍する兵士(スパイ?)も重要な役回りを負っている。この「現地の少女」がむちゃくちゃかわいい!

 

軍人と政治家の役回りがこれでもかときれいに整理されており鑑賞者にとっては見やすい反面、「決して軍人に言ってはならない、彼らが戦争の代償を知らないなどと!」というセリフはキザすぎーと思った。そこで人道派の女性政治家が一筋の涙を流す、など…。ちょっと美化しすぎよね。全体的に。イギリスは良いかっこしいなのか。酒に飲まれて自分勝手に攻撃を始めるイーサン・ホークの方が、正直に感じた。

ネオン・デーモン(2016年、フランス・デンマーク・アメリカ)

ネオン・デーモン [Blu-ray]

 

制作中の情報の時から「絶対好きなタイプの映画だ」とチェックしていたものの、ほとんど公開されずにいつの間にかDVDになってしまっていた作品。やっぱり好きだったー。夫は「つまんない」と言っていたし、正直その理由も分かる。ストーリーはけっこう普遍的なんだけどすごく「よく見る話」なうえに、とても回りくどい分かりづらい表現でそれを表現しているので、ちょっとイラッとする。

ただ、ヴォーグから抜け出してきたようなビジュアルがいちいちパキッと決まっており、ビジュアル重視派としてはたまらなかった。動きやセリフがかなり抑えられており、映画なのに静止画を見ているような独特な雰囲気と、機械音のような音楽が耳に残るファッショナブルな映画。原色にグリッターがちりばめられた独特の色使いも魅力的だった。なんでも、レフン監督は色覚異常があるらしい。「美少女が象徴的に死ぬ」映画に外れなし。(めちゃくちゃ偏った見方でスンマセン)(しかも唐突にネタバレ)

 

***

 

田舎からLAに出て来たモデル志望の16歳。モデルたちと、モデルを取り巻くカメラマンやスタイリスト。16歳少女は逸材ともてはやされ、モデルたちは危機感を感じ――。そこはやはり、「センパイからのいじめ」及び「少女性の喪失」「慢心」そして「身を持ち崩す」ですよね、ハイ。安心してください、その通り進みます。この映画だと、そういう泥臭い事は全部「※そういうイメージです」というような象徴的シーンが流れるので、何が何だか分からない。むしろそこが良い!

ネコ科の肉食獣に「少女の部屋」を荒らされ、年上の男に薔薇を贈られて失神、ステージでは「逆三角形の何か」に襲われ青から赤に変わり、「エル・ファニング」から「悪・ファニング」に変身。そこからも泥臭く身を持ち崩すシーンを描いたりはせず、突然センパイに「食われる」という最大の謎シーンでクライマックスを迎える。あ、忘れてたけどエルを殺したスタイリストが満月を見ながら失禁するシーンの方がナゾだったわ。これは出産・生まれ変わりのメタファーか何か?(そういえば、失禁シーンのある映画にも外れなし、だ。)

ここまで読んで、「なんだかめんどくさい映画だな…」と思わない人は、あまりいないかもしれない。

 

綺麗な青い目玉をぱくっと食べるラストシーンも好きだったし、エンディングの砂漠を歩くエルファニングも良い。全てが一枚の絵画のように決まっていて、その中心にいるエルファニングと周りの女性たちが瑞々しく、まさに完璧だ。

ただ、個人的には劇中で美女だと絶賛されるエルがそこまでタイプではなかったため、「君は完璧だ」「人々をひきつける才能がある」「その鼻は本物?(←!?)」などのセリフが嘘くさく感じてしまった。周りのモデルたちの方がよほどキレイに見えるけどなー。好みの問題か。

哭声/コクソン(2016年、韓国)

哭声 [DVD]

「國村隼さんがふんどし一丁で生肉をむさぼり食う」というとんでもない情報があったので、おそるおそる見てみた。なかなかおそろしかった。重層的なつくりのホラー映画。一応ネタバレ禁止かなーと思う。

 

***

 

この映画、途中までの感覚と観終わっての感覚が全く違って、後味は端的に言って最悪だ。

始まりの方は田舎ののんびりした警官一家の、どちらかというとコメディタッチの話。事件があっても、まずは家族で朝食をのんびり食べてから出勤するなど、田舎のスローなやり取りがなんとも魅力的だ。

そういう日常に、突然キツめのホラー描写が入ってくるんだけど、それでも主人公の警察官はどこか現実感がないような感じでノホホンとした日常を続ける。「よそ者の日本人(國村隼)の仕業にちがいない」なんていう噂話も、どことなく冗談のような、でも本当かも?といった感じでコミカルに受け取られる。

がぜんシリアスになってくるのは、警察官の一人娘に幽霊が憑いて(?)から。それまでのらりくらりしていた警察官は奮起して、思い込みで日本人の家に押しかけ、ついには思い込みを募らせて殺してしまう。

そこが一応「よそ者を悪魔だと決めつける」寓話的な構成になっているんだけど、この映画は嘘か本当か分からない映像が多いため本当に真実が分からなくなっているのが曲者だ。事実、冒頭から國村隼が鬼の目をして生肉を貪り食うシーンはあるし、後半「神」として出てくる女性は変質者にしか見えない。

 

だから、最後に牧師が悪魔に出会うシーンで「お前が見たいと思ったものが見えるだけだ」と種明かしをされても、なんだか腑に落ちず、寄ってたかって素朴な警察官を騙したような気分の悪さが残った。

 

他には、なぜ悪魔かと言えば、韓国はキリスト教の人が多いんだ!と改めて気づいたり、ああ、だからゾンビもいるのか、とゾンビ好きの血が疼いたり(なかなかつくりのいいゾンビ、出まっせ!)、韓国の田舎ってめちゃくちゃ質素なんだなーと思ったりした。

世界観は、日本的な精神に来るホラーと、欧米のスプラッター&ゾンビ系ホラーが混ざったような感じで、とんこつ醤油味のような濃厚さ。大金を吹っ掛ける「祈祷師」という謎の存在が当たり前のように受け入れられているのも面白かった。この「祈祷師」を巡る演出は韓国の仏教寺院に雰囲気が似ているんだけど、一応キリスト教の文脈で存在しているんだよね?と不思議だった。大量の蛾に道を阻まれ、神に出会って血とゲロを吐きまくる辺りはいかにも欧米系ホラー。「鶏が3度鳴く」も出てくる。やっぱり、基本はキリスト教なんだなー。

 

後味は悪かったけど、色んなスパイスが入った複雑な味の料理みたいな映画で、面白かった。

スノーデン(2016年、イギリス・ドイツ)

スノーデン(字幕版)

エドワード・スノーデンがCIAからNSAに入り、世界に対してアメリカの内部告発を行うまでを描いた伝記的映画。この事件については漠としか知らなかったので、勉強として見てみた。映画には多少現実と違うことも描かれており、ドキュメンタリーの「シチズン・フォー スノーデンの暴露」の方も合わせて見るとよいらしい。

いくつか分からないところもあったが、そこはオリバー・ストーン監督で何の前知識なく娯楽作品として見ても最後まで飽きることなく楽しめる。

アメリカが世界中を監視している、という映画の核心にあたる話は今ではもう周知のこととなっているので驚きはなかったが、日本にスパイプログラムが組み込まれていて、いざとなれば機能停止にできるというのは驚いた。

何も知らなかった私としては、スノーデンがCIAの中でもトップクラスの頭脳だったということと、かなりの愛国者だということが一番の驚きだった。正義感と愛国心溢れる静かな天才が理想と現実のはざまで心身を病み、理想のために戦う様子は、フィクションとして見ても大変よくできたヒーロー物。これが現実だというのだからなおさらだ。