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SING/シング(2016年、アメリカ)

SING/シング【通常版】(吹替版)

イルミネーション・エンターテイメント制作の長編アニメ映画。

ここは制作費が低くて、なんとピクサーやディズニーなどの半分くらいでつくっている。それは例えば街並みの表現力なんかの差に出ているんだけど(SINGの街並みはベイマックスのサンフランソーキョーやズートピアの街並みにはかなり劣る)、肝心のキャラクター造形は非常によくできていて個人的には問題なし。それでいて興行収入はベイマックスを上回っている。すごい。

また、昨今のポリティカルコレクトネスやダイバーシティー重視のアニメ映画とはちょっと毛色が違って、割とステレオタイプなキャラクター造形がそのまんま出ていたリする。あまり思想に政治性や社会性がないように思える。個人的には、説教臭くなくこれはこれでアリだと思う。

劇場で公開するタイプのアニメ映画は親も楽しませる必要がある。ポリコレ系のアニメ映画だと政治的な裏テーマを読み解く楽しみがあったりするのだけど、イルミネーション・エンターテイメントだとこれも直球で、昔の音楽や音楽にまつわるネタをちりばめて大人にも楽しめるようにしてある。

 

前置きが長くなったけど、そういった背景からしてSINGはかなりよくできた作品だった。

色々な動物が出てきて象徴的に人間の葛藤を描きつつ、かと言って説教臭すぎることはなく、エンタメに徹している。CG的な描写は劣るけど、ストーリーに入り込めるため気にならなかった。

 

ビジュアルによく登場しているブタの女性は子だくさんの主婦。毎日子供の世話と家事に明け暮れ、自分のことは二の次。仕事が忙しい夫にあまり振り向いてもらえず、自信がなくなってきている。この主婦を筆頭に、信心深い大家族と一緒に暮らす内気な象の女の子、家業を手伝わされる窃盗団の息子、ダメ男に尽くすパンクロッカーの女の子、自尊心ばかり強いストリートミュージシャンなど、自分を見失いかけているキャラクターたちが歌うことによって自分を取り戻す。それぞれにモデルがいるのだろうと思われるくらいキャラクターがリアル。しっかり一人一人の背景を見せているので否応なく引き込まれた。

主人公はしがない劇場のオーナーだが、この人物もかなりリアル。音楽業界はヤクザなところなので子供向けアニメにするにはかなり理想化されているのだろうと思って見てみたが、そんなことはない。いい加減で嘘つきな主人公が情熱を振りかざして周りをだまし、なんとなく成功していくのをそのまま描いている。(もちろん、音楽プロデューサーがみんないい加減で嘘つきっていう意味じゃないよ。)主人公に利用されつつも仲良くやっている、無気力なお金持ちの息子がまたリアルで…。よくわかんないけどうまく行っているような人の周りには、高確率でこういう人がいる。

 

4歳の娘も一緒なので日本語版を見たが、声優に本物の歌手を当てているのが良い。最も歌がうまい象の女の子はMISIAらしい。普段ボソボソとしかしゃべらないキャラクターなのが絶妙に合っていて、最後の歌に至るまで違和感なし。他にもスキマスイッチや坂本真綾などが声を当てている。

 

最後に向けてどんどん期待度が高まっていく構成も見事だし、ラストコンサートは冒頭の主婦バーレスク演出から涙が出た。尊大なストリートミュージシャンがマイウエイを歌うのはそのまんま過ぎて笑えちゃうんだけど、マイク演出が面白い。歌が続いて画替わりがしないところに、ゴリラ父がキングコングばりにビルの屋上を走って会いに来る演出をはさむのもうまい。

最後は三日月が本物の満月になって、めでたしめでたしというわけだった。