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ディストラクション・ベイビーズ(2016年、日本)

ディストラクション・ベイビーズ

劇場で見るか迷っているうちに公開が終わってしまい、しばらく存在を忘れていたら、なんとアマゾンプライムに登場したので見てみた。

あー、若いピリピリに尖った監督がつくった映画っぽいなー、好きだなーと思ったり。(私よりだいぶ年上だけど)(そして謎の上から目線、すみません)

 

だいぶ毛色は違うけど、聾学校にはびこる暴力を描いた「TRIBE」に近いものを感じた。そういうコンセプチャルなつくりに対して、なにげに人気若手俳優が大勢出演しているのも特徴的。(そういえば前作のNINIFUNIもモモクロが出てたりしたなー。)でも、彼らのファンが青春映画だと思って見に来たらこんなつもりじゃなかったと思いそう。そんなバイオレンス映画だった。

 

*** 

 

一人の人物が無差別に淡々と暴力をふるいまくる映画と言えば、暴力の理由に「粛清人的立場」と「葛藤の発露」の二つがあるような気がする。

前者だと「ノーカントリー」でのハビエル・バルデムみたいな、背景も理由も不明なタイプ。「クリーピー偽りの隣人」などもそうか。人間の形をしており、暴力を振るう本人との関係性が濃く生まれるから恐ろしいんだけど、実はエイリアンやモンスターパニックものと骨格があまり変わらない。

後者だと、子どもの頃虐待されるなど何らかのショックが発端であるパターンが多い。例えば「ヒメアノ~ル」はこれに入るけど、もしかしたら「13日の金曜日」なんかもこちらに入るのかもしれない。前者と違って、しんみりした読後感が残る。

 

「ディストラクション・ベイビーズ」だと、主人公・泰良(柳楽優弥)の「親がいない」「周りに愛されていなさそう」みたいな背景はボンヤリ言及されるものの、あまりそこに力点はなく、無差別なストリートファイトのディテールばかりが描かれる。最初と最後にガッツリとカメラ目線を向けるシーンが非常に効果的で、これは鑑賞者側に「お前の家にも行くぞ」とモンスターたる泰良の存在を突きつけているように感じられた。そういう意味では、泰良は基本的には「粛清人的立場」、何か人外のものとして描かれていると思う。

それにしても、柳楽優弥の存在感は抜群だった。ぽっかりと空洞なのに強いまなざしがむちゃくちゃ怖い。何を考えているか分からない雰囲気があり、絶対街角で出会いたくない。

 

この映画で特徴的なのは、むしろ泰良に触発されて変わっていく周りの人物たちの描かれ方だった。会えない兄を追いかけて兄のようになり替わっていく村上虹朗を始め、弱さを露呈させて自滅する菅田将暉、内なる暴力性を爆発させる小松奈菜など、泰良の衛星たる人物たちが濃い。暴力がもたらす連鎖反応を端的に表現していたし、ほとんどしゃべらず無表情の泰良を表情豊かにしてもいた。

 

獲物を探してうろつく主人公の背中を追いかける視点、ギター単の不協和音などバードマンみたいな演出もあり、ストリートファイトのシーンでは対象から少し距離のある撮り方で盗撮映像を思わせる。

殴る音が、映画でよく聞く「どごっバシッ」という音ではなく、「ぺち、パチン」という音なのが面白かった。実際のケンカを目撃したことが無いんだけど、リアルな音はこんな感じなのかもしれない。

 

見ていて気持ちいいタイプの映画ではないが、かなりおもしろかった。