MENU

バース・オブ・ネイション(2016年、アメリカ)  

バース・オブ・ネイション (字幕版)

アメリカにおける黒人差別の、一番熾烈だった頃に起こった黒人による白人の集団殺人事件を描いた映画。

制作者の初めての長編映画で、しかもかなり出来が良いという話で、公開前から見るのを楽しみにしていたんだけど、製作者側の過去のレイプ事件が明るみになり、ほとんどお蔵入りしてしまったらしい。日本でもDVD公開だけ。事件は不起訴だったそうだけど、原告がその後自殺してしまい、どうしても印象が悪い。しかもこの映画には白人による黒人女性のレイプが一つの中心的事件として扱われているので、歪んだ印象を受けてしまう。

疑わしきは罰せず、なのだけど、昨今の状況からすると無理もない処遇と言わざるを得ない。

 

さて、映画の方はどうだったかというと、かなりしんどい映画ではあったが、同時に宗教的な高み、精神世界が描かれていて見ごたえがあった。白人に虐待される黒人がこれでもかと描かれているのはアカデミー受賞作品の「それでも夜は明ける」を思わせるが、グロテスク度で言えば本作は数段上のしんどさ。歯をバチンバチン折るシーンがあって、これが本当につらかった…。虐待され、心を病んだ黒人たちがリアルで、たぶん黒人差別映画の中では別格にエグい表現だと思う。


一方で主人公(=監督)以外の人物が薄ぼんやりとしていて、被虐の対象ではあるがあまり人物像は浮かんでこない。いつも一緒にいる友だちのような存在もいるんだけど、彼ですらどんな人なのか良く分からない(ちなみにフィアー・ザ・ウォーキングデッドの出演者でびっくりした!)。

主人公は幼い頃から特別の存在であり、差別の対象からも少し距離を置かれている第3者的な存在。彼が初めて虐待され、その妻も被害に遭ったことがきっかけとなって蜂起が始まる。昔から一緒に育った白人の主人を殺すところから始まるのだから驚く。

反逆は48時間で制圧され、主人公もそのうち捉えられ絞首刑になる。やはりそこはお約束的な天国に上っていく表現なのだけど、首が締まって顔が紫になっていくところもしっかり描く徹底ぶりだ。

 

今回図らずも感じたのは、社会的大義があったとして、こういうグロテスクな表現を好んで作るのは結局「そういう表現がやりたかったから」ではないかという疑問だった。

世の中にはどうしようもない暴力はあるし、そういうものから目をつぶるつもりはないのだけど、とりわけ実際に起こったことを実際に体験していない人が表現しているものは少し距離を置きたい。表現者が感じた事件を視聴者は見守るしかできないわけで、あまり一つの作品で事件の全体像を決めてかかるべきではないと思った。

実際、当時の黒人差別は熾烈だったのは間違いないのだろうけれど…。