アメリカのパキスタン系コメディアンが白人の女の子と付き合うけれど、厳格な家族には反対されて…という話。実話なんだとか。
本人が演じている主人公も、ゾーイ・カザン演じる白人の女の子エミリーもリアルな存在感で可愛らしい。プロフィールを見てびっくりしたのだけど、ゾーイ・カザンはなんと35歳らしい。劇中では大学生にしか見えない。しかも、夫ではないものの長年交際して一児をもうけているパートナーは「スイス・アーミーマン」のポール・ダノらしい。これは関係ないか。
たびたび登場するコメディアン達のパフォーマンスはびっくりするくらい面白くなかったのだけど、シュールで気まずい日常会話はクスリと笑えるシーンもあり、わだかまりが解けていく様子が丁寧に積み上げられている。
キリキリしたお母さんが、娘が回復したとたん機嫌のいい付き合いやすい女性に変わったのも「あるある」だと思った。クメイルが「移動させるな」と必死に言った結果、娘が助かったということもあって、クメイルの評価が一瞬で振り切れたことも表現していたと思う。あんなに毛嫌いしていたクメイルなのに、舞台で彼がヤジられている姿にカッとなり、ヤジった観客に怒鳴り散らすシーンはかなり好きだった。ヒステリックだけど非常に好感の持てる人物で、リアルな厚みのある女性だった。
論理的で落ち着いているように見えるけれど、日常会話がどことなくロボットと話しているようなちぐはぐさのある父親も「あるある」だった。というか、これまさかうちの父親では…?
この夫婦像、よく出来すぎだわ。
こんな調子でどの人物も記号的にではなくリアルな人として浮かび上がってくるので、割と地味な話なんだけどしみじみとした良い後味が残る。
ラストは映画臭すぎてどうかと思ったのだけど、まぁそこはハリウッド映画。どんなリアルな映画であっても、ひとさじのアンリアルがいい味を出すのだ。(なんだこのオチ)
こういうシュールでクスリと笑える家族像だと「ありがとう、トニ・エルドマン」を超えるものはないと思っていたのだけど、(ちなみにいまアマゾンプライムで見られる!)
ビッグ・シックを見た後だと色々と演出過剰なような気もしてきた。でもまぁ、あちらはあちらで愛すべきヨーロッパ映画。やはりトニ・エルドマンは最高。