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家の前にビルが建った

このあいだから悪い予感のようにむくむくと伸びていた鉄骨が、ある朝起きたら、完全な箱となって我が家の眺望を塞いでしまった。それまで気にしたこともなかったくらいのなんてことはない眺望——ビル群と、その向こうに見えるちょっとした海——だったのに、塞がれてみると驚くほど喪失感があった。

過ごしやすい季節は、テラスに出てご飯を食べるのが決まりだったけれど、ビルが建ってしまうとその魅力も半減、いやものすごく小さくなってしまった。遠くから飛行機雲が伸びていくのや、刻々と沈む夕日に照らされて変わっていく雲の色など、それまで楽しんできた風景は無くしてみないと気づかない。

よく見ると周りでは古ビルの開発が進んでおり、かろうじて残っている景色ですら変わっていきそうだ。

 

考えてみると、このマンションに住み始めたときは眺望なんか気にしてもいなかった。「テラスが広いから、そこで子供が長く遊んでいられるだろう」くらいの気持ちだった(そして、我が子は結局テラスでひとり遊びなんかしてくれなかった)。

しばらく住んでみると、中層のビルが建て込んでいるエリアなので、テラスが広いことで結果的にエアポケットができて、窓の外が広々と感じられるのが利点だということが分かった。めったに使わない空間でも、ちゃんと目に見えて、占有感があるだけで人の空間認識に影響があるのだろう。

 

一時はこの辺のマンションでも買おうかと思っていたけれど、こうして突然となりのビルが伸びる!なんていうことを経験すると、躊躇してしまう。

家探しはもう丸6年経ってしまった。

 

そんな折、小高い丘の上にある一片の土地を発見。ここなら、そうそう眺望を奪われることも無さそうだ。便利な駅からも徒歩10分内。車の寄り付きも良い。ここが買えたらいいなぁ。子供の小学校入学まで、あと1年を切ってしまった。

なんとか早く決めたい。